<アーカイブへ>正月休み、ソファに寝ころびながら映画「女系家族」(1963年 大映)を観た。山崎豊子の原作を三隅研次監督が映画化。大阪・船場の繊維問屋の遺産相続を巡り、三姉妹を中心に人間のどろどろとした欲望を赤裸々に描いた作品。原作もさることながら、出戻り長女役の京マチ子をはじめ、遺産相続の整理をする番頭(中村鴈治郎)と叔母(浪花千栄子)たちキャストの演技が素晴らしい。古い屋敷のかびくさい畳の臭いが伝わってくる。
影の主役は、急死した当主の愛人(若尾文子)。三姉妹一人当たり約一億円の遺産がころがりこむはずだったが、若尾が現れ身重であることを明かす。当時も認知されていれば、生まれる子に半分の相続権があった。遺産の取り分は当然減ってしまう。ここから三姉妹と若尾の壮絶なバトルが始まるのだ。 若尾が有馬温泉で芸者をしていたことを明かすと、京マチ子は「フン、有馬芸者かいな」と、口に手を当てて軽蔑の笑いを浮かべる。露骨な差別発言。半世紀後の今だと、脚本家は別のセリフに置き換えるのではないか。だが本音をあけすけに伝えるには上方言葉に限る。東京の山の手言葉だとこうはいかない。文楽人形のような鴈治郎と、浪花千栄子の能面の掛け合いは、ほとんど漫才を観るよう。遺産目当てに、京マチ子をたぶらかす田宮次郎のスケコマシぶりも堂に入っている。 三姉妹は、わざわざ医師を連れて若尾の家に乗り込み堕胎を迫る。若尾はここまでは被害者として描かれる。その後、鴈治郎の策動で若尾の出産前に遺産相続を決めることで一致。最後の親族会議が大団円となりかけたその時、若尾が男の赤子を抱き、認知書を持って現れた。七カ月児を無事産んだと聞いて全員ガックリ。敗者と勝者の関係は最後に逆転する。勝ち誇った笑みを浮かべる若尾…。 この映画がヒットするなり、同じ63年にすぐテレビドラマ化され、それ以降2005年まで計6種類のテレビドラマが制作された。知らなかった、そんな人気作品とは。05年のTBSの連続ドラマでは、若尾の役を米倉涼子が演じ、最高18%台の視聴率をとったという。時間があれば見比べたい。 人気の理由は何か。親子をはじめ兄弟や夫婦など家族の絆ですら、カネという欲望の下ではあえなく費える様があっけらかんと描かれていることにある。己の内に潜むどす黒い欲望の固まりを嫌でも自覚させられるのだ。それを自覚することこそ、精神浄化作用(カタルシス効果)に他ならない。「勇気をもらった」「絆」という空疎な言葉の何百倍も効果がある。(了)
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