<アーカイブへ>オウム真理教の元幹部、平田信(46)と斉藤明美(49)の逃亡生活ほど男女関係の不思議に妄想を駆り立てられる物語はない。17年に及ぶ密室生活はいったいどんなものだったのだろう。警察権力という「共通の敵」の存在で、二人は同志愛でつながっていたに違いない。逃亡生活を伝える報道を見てすぐ頭に浮かんだ映画がある。
ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイが共演した「俺たちに明日はない」(1967年)。「ン?まだ産まれてないころの映画だよ」という若い読者のために、あら筋を紹介する。世界大恐慌の不況が続く1930年代、米国各地で強盗を繰り返したボニーとクライドの実話が元。日常にあきあきしていたウェイトレスのボニーは、刑務所を出所したクライドに引かれ盗んだ車で一緒に銀行強盗を始める。ゲームを楽しむように強盗を繰り返す二人だが、最後は警察の一斉射撃を浴び「蜂の巣」となって絶命-。 車や銃を使った派手なアクションは、いかにもハリウッド映画らしい「動」。一方、平田クンたちは「静」そのもの。警察から身を隠すため、息を殺して目立たない生活に徹する。「四畳半」から一歩も出ない平田クンは「引っ越しの時以外は外に出なかった」。共通するのは「愛」。オウム付属病院の看護師だった斉藤サンは、平田クンとともに福島、宮城、青森を転々とした後、最後は「吉川祥子」の偽名で東大阪の整骨院で働いた。部屋に残されたのは布団一組ときれいに洗った茶わん。つつましい生活と平田クンに尽くした生活が偲ばれる。「尊敬が愛情に変わった」と弁護士に語ったという。 映画では、ボニーがクライドの体を求める。「インポ」のクライドは「女は嫌いだ」と拒絶しボニーは失望。セックスレスはクライドにとっても寂しかったが、二人の愛は変わらない-というお話。平田カップルのほうはどうだったのだろう。斉藤サンが毎日昼すぎに届けるノリ弁とDVD。二人はウサギを飼い「ウサギをみとってから出頭した」。出頭した時、彼女は現金800万円とウサギの遺骨を持っていた。謎のウサギ。愛を解くカギかもしれない。 日本では「交際している女性がいない未婚男性」が61%。「交際相手のいない未婚女性」も49%。このうち「異性との交際を望んでいない」男は45.0%に女は45.7%。コイツらがカップルになっても、セックスどころか毎日ゲームとケータイの画面をにらめっこしているに違いない。「俺たちに明日はない」という精神的な飢餓に自らを追い詰めないとダメかも。斉藤サンは「偽名で過ごしてきた。偽りの人生は終わりにします」と弁護士に言ったという。偽りではない人生とは何か、教えてほしいものだ。
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