<アーカイブへ>幻想という薄い皮が一枚一枚はがれていく。年を重ねるとはそういうことだ。例えば異性幻想がはがれると、異性への関心が急速に失われていく。恋に落ちれば周囲はまったく見えなくなり、恋人の痘痕(あばた)が「靨」(えくぼ)に見える。これを幻想と呼ぶのだが、幻想がなければ恋愛は成り立たない。だがそれは長続きしない。どんな美人、イケメンでも必ずオナラはするし、毎日顔を合わせればやがて飽きてくる。外見はやさしそうで知性を感じても、内実を伴わないケースは多い。
大学の教員仲間と居酒屋で一杯やっているうちに、好きな俳優の話になった。「サユリストっていうけど、どうして男は幾つになっても吉永小百合が好きなんだろう?」と女性陣に水を向けた。「そりゃあ簡単ですよ。男はねえ、幾つになっても女に母親像を求めるんだよ。まあほんとの母親じゃなくて美化された母親像だけどサ」。「アラカン」女性教員が答えた。現役時代はTV局にいた。簡単に言えば、多くの男は「マザコン」ということ。反論は控えた。 じゃあ好きな男優は?「私は死んだ原田芳雄が好きだった」と「アラフォー」が打ち明けた。哲学が専門だ。顔が赤いのは、酒が回ったせいだけではなさそうだ。原田はいいけど少し過剰な演技が鼻についたと混ぜっ返すと、アラフォーは「ちょっと知的で不良ぽいのがいいんですよね。理想のオトコですか?顔は田宮二郎で、声は成田三樹夫かな」。 うーんシブすぎんのよ。「白い巨塔」で、医学部教授役を演じた田宮は知っていても、成田を知っている人は少ないだろう。「仁義なき戦い」をはじめ、ヤクザ映画に欠かせない悪役。まるで剃りを入れたような広い額が個性的だった。「ニヒルで鋭い眼光とドスの利いた声を活かした鬼気迫る演技」と「wikipedia」は書く。アラフォーはその夜、調子に乗って成田を「ミッキー」と、自分で付けた愛称で呼び続けた。 話は美人に戻る。台湾で撮った一枚の写真。フロアーに座り込んで、熱心に本を読む女の子の姿が見える。大学の図書館じゃないよ。台北の大型書店の歴史書のコーナーでのショット。華人社会の書店では、本を買わずに、階段や床に座り込んで「お勉強」するのは許される。KLの書店でも同じでしょ?なかなか美形のこの娘、ハイヒールを脱ぎ捨て脇に置き、すらっと長い脚を惜しげもなくさらしている。うーん絵になる。感心な娘、何の本を読んでいるのか、後ろからそっとのぞき込んで、のけぞった。彼女が熱中していたのは本ではなく、ゲームだったからである。女性への幻想がまた一枚はがれる思いがした。(了)
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