<アーカイブへ>震災直後の銀座のさびれようは、言葉では尽くせない。金曜の夕方なのに、ウィンドーショッピングの客は数えるほどだし、有名レストランもがらがら。銀座が売りものにする「華やかさ」は消え、高級感あふれるヨーロッパブランド店のまばゆい照明が寒かった。まるでシャッターが降りていない「シャッター街」といった趣。
「さびれ銀座」は、震災前からの「失われた20年」と消費低迷がもたらした現象だが、そこに思いがけない救世主が現れた。中国人観光客である。銀座8丁目の高速道路のガード下に大型観光バスが横付けられると、中国人観光客がどっとはき出される。目抜き通りは中国語が幅をきかせ、北京に広東、上海と沿海部の富裕層が主人公になった。一回に落とすカネの桁が違う。観光客向けの中国語のショッピングガイドを開くと、高級部ブランドのバッグやファッション・グッツがずらり。値段は百万円単位だった。 うるさいほど賑やかだった連中の姿が突然消え、銀座にまた閑古鳥が戻ってきた。「3・11」である。4月、5月の訪日旅客数は、去年と比べ6~7割方減った。放射能汚染された地域にわざわざ行こうという物好きはどこにもいない。われわれも逆の立場ならそうだろう。その彼らが6,7月ごろからだんだん戻ってきた。そして日本政府は7月、中国の個人旅客に3年間のマルチビザ(数次査証)を発給する措置に踏み切った。これまでは年収6万元(約80万円)以上の富裕層を対象に、一回の滞在期間が15日間だったが、今後は「一定の収入」があれば申請でき、一回の滞在期間も90日間に延長された。 ただし条件が一つある。それはビザを取得して初めての日本入国には、必ず沖縄を経由しなければならない。「観光立国戦略」と沖縄振興がセットになっていると考えていいだろう。ただ大手旅行社の関係者に聞くと「ビザ申請の時の旅行日程に沖縄と書いてあればいいんです。実際の旅程は変更可能ですから」という答えが戻ってきた。なんとなく最初から抜け穴が用意されている感じがしないでもないが、まあいいか。銀座にまた活気が戻ってくるのだから。 オット、あの「人民日報」が、中国人観光客向けに注意喚起の記事を掲載したゾ。「列に割り込んではいけない。公共の場所で大声を出したり、携帯電話を使用してはいけない。エスカレーターは片側を空けて乗らなければならない。温泉の中で体を洗ってはいけない。靴のまま家に入りスリッパで畳に上がってはいけない」。う~ん、思い出すなあ。「音をたててスープを飲んではならない。ステテコ姿でホテルの客室を出てはならない。ブランド店に集団で押しかけ、買い漁ってはならない」。30年前のわれわれの姿がそこにある。(了)
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