<アーカイブへ>市川崑総監修の「東京オリンピック」を観た。1964年の東京五輪の公式記録映画だ(170分)。徹底して人間を中心に描き、選手の飛び散る汗や鼓動だけでなく、観客の豊かな表情が伝わるドキュメンタリー映画だ。65年の公開当時は「記録か芸術か」という論争が起きたらしいが、半世紀後のいま観ても、全く飽きを感じさせない。
映画が伝える時代のメッセージがある。この映画では、敗戦から復興した日本が、高度成長の波に乗り「欧米を中心とする世界の仲間入りを果たした」ことにあった。日本の獲ったメダル数が、米国、ソ連に次いで3位だったこともそれを象徴している。参加国は95ヶ国とロンドン(204ヶ国)の半分。参加国の多くは、欧米と旧ソ連・東欧諸国など「白人国家」だった。 「マレーシアは?」という声も聞こえるなあ。マレーシアは、前年の1963年にマラヤ連邦がシンガポールなどと統合してできたばかり。メダル?ムリでしょ! 日本以外でメダルを獲ったアジアの国は数えるほど。韓国(3)、インド、パキスタン、フィリピンの各1だけ。ロンドン大会では、中国が米国に次ぎ2位で、5位に韓国、日本は10位だった。五輪は経済力と勢いをそのまま反映している。88年のソウル五輪、2008年の北京五輪も同じ。 さて、日本が世界の一流国入りを目指したのは東京五輪が最初ではない。明治政府は、欧州列強をモデルに急速な工業化を進めた。同時に軍事大国化も図り、アジアの盟主になろうとして自滅の道をたどった。問題は、われわれが近代化のモデルとした「脱亜入欧」にある。「後進世界であるアジアを脱し、欧州列強の一員になる」という意味だ。 オリンピックのメダル数が端的に示すように、21世紀初頭の世界は、欧米中心から、成長著しいアジア中心へと、歴史的な転換途上にある。この傾向は今世紀半ばに向けますます強まるだろう。そんな時に2020年の五輪開催地に再び東京が選ばれた。安倍首相はIOC総会会場に自ら足を運び「トウキョウ」とアナウンスされると、元首相や都知事と共に狂喜乱舞の大騒ぎ(写真)。メディアや財界も「3兆円特需」を当て込み「アベノミクス第4の矢」と、はしゃぎまくっている。 東京五輪のころ中学の授業で「ガイジンに道を聞かれたら英語でどう説明する?」という課題が出た記憶がある。国際化時代にふさわしい教育だったのだろう。でもちょっと待てよ。「ガイジン」という日本語は、白人と黒人を意味していても、黄色人種のアジア人は含まれていないのではないか。7年後の東京大会はもはや、「世界の一流国入り」をメッセージにすることはできない。アジアを中心とする世界に、日本が「脱亜」から「入亜」への明快なメッセージを発しなければならない。まるで社説のようになってしまった。(了)
0 コメント
返信を残す |