<アーカイブへ>学生を連れて某テレビ本社の見学に行った。来年卒業予定の学生の就職率は60%を切って、既に就職氷河期に入っている。せめて2,3年生のころから生の社会に触れる機会をというのが目的。報道局が見学の中心だが、そこは華やかなテレビ局。タレントがひしめく制作現場も見ようと、エレベーターに乗って上階へ。
上階に着くと、顔色の悪い細身の中年男がドアの前に立っている。後からエレベーターを降りた学生から突然、奇声が上がった。「エー、うっそー!」。入れ違いにエレベーターに乗ろうとする中年男が、女子学生の声色を真似て「エー、うっそー!」。エレベーターホールがどっと沸いた。「うっそー」の学生に聞くと、その中年男は「明石家さんま」。「握手しちゃった!どうしよう」と、「うっそー」の興奮はしばらく収まらないのだった。 そのキー局は、昨年から3波にわたる「36時間」ストに揺れた。ストといっても、アナウンサーは除外されているから、隣国のテレビのように画面が突然「真っ黒」になるわけじゃない。スト理由は、会社側が提示したベースアップ切り下げや残業代カットで、組合は「賃金カットだ」と反発している。しかし「賃金カット」に怒っているのは、組合に所属する「正社員」だけ。制作会社からの出向や派遣社員ら「非正規社員」は、賃金が低い上、非組合員だからストはできない。やればクビ。 「正規社員の賃金ってどのくらい?」。社内の案内役に聞けば、オットットとのけぞりたくなる答え。入社10年の社員で年収一千万円超、生涯賃金にすれば4億円だってさ。会社提案が通ると「1億から1億5,000万円下がるんです。やってられませんよ」ときた。テレビ局の現場を支えているのは、数で6割を超す非正規社員。だが賃金は正規社員の3分の1から4分の1にすぎない。出張手当だって1万円の正社員に対し、半分の5000円。中には「3,300円程度」という社員もいるという。 ここまで書けば、「日本は一億総中流」というのが過ぎ去った幻想にすぎず、雇用の段階から「階級社会化」していることが分かるだろう。正規と非正規は入り口が違うから、双方の間で対立は存在しないのだという。企業収益が落ち、非正規社員の割合は増える一方だが、経済財政相の海江田万里によると、年収1500万円は「金持ちじゃない。中間所得者だ」そうだ。その所得層は1%だというのに。 学生の中にアナウンサー志望がいた。案内役に聞くと「受かるかどうかは運ですね。宝くじみたいなものです」。続けて声を潜め「女子アナで権勢ふるっている女性は、会長のこれですけどね」と小指を立てた。あの女子学生がまた「エー、うっそー!」。いったん引いた興奮にまた火がついた。(了)
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