<アーカイブへ>「台湾を表面的にみると、統一か独立かでケンカばかりしているように見えるけど、実際は、民主と自由の追求というコンセンサスがある。現状維持が最大公約数ですね」。こう語るのは、台湾を代表する作家・評論家の龍應台(61)。昨年5月に創設された台湾文化省で初代大臣に就任、このほど台北の執務室で計3時間のインタビューに応じてくれた。
中国と台湾が分断されてから60年に当たる2009年に上梓した「大江大海1949」(邦訳「台湾海峡1949」白水社)は、台湾、香港で50万部を超えるベストセラーに。中国大陸出身の両親をはじめ、台湾籍日本兵や,抗日戦争の中国軍兵士など、戦火の中でアリのように潰された人びとの声を集めたオーラルヒストリーだ。邦訳を読んだ読者もいるだろう。 インタビューは、執筆の苦労話から、台湾人のアイデンティティー(自画像)、日本観、中国観など多岐にわたった。彼女と最初に会ったのは1999年秋。石原慎太郎都知事(当時)が馬英九・台北市長(同)を訪問したのを取材した時のこと。当時、台北市文化局長をしていた彼女が著書を贈ったら、石原の顔色がさっと変わった。 「よく覚えています。日本の戦争責任に関して当時、李登輝総統は謝罪の必要はないと発言した。わたしは李総統の考えを批判する文章を発表し、著書にはその文章が入っていた。それで本を差し上げたら、石原さんの顔がこわばった」。 米カンザス州立大で英米文学博士号をとった。80年代後半、スイス、ドイツに滞在中、ドイツ人と結婚、二男をもうけたが離婚した。デスクワークより現場主義。スポーティなスニーカーを履いて、文化省の関係施設をしょっちゅう視察。現地の人をつかまえては、ポンポン質問を浴びせかける。 「大江大海1949」は、中国では発禁扱いとなったが、海賊版が大量に出回り、大陸の若者から「初めて知った」などと書いたメールが寄せられる。「中国の安定は重要です。中国は大国として台頭しました。隣の台湾は小さいけれど、独自の役割を発揮できる。同じ言語と文化を持っていますからね。中国も変化しています。それは表面的なものではなく、本質的な変化です」。中国も、市民社会の形成に向かいつつあるという意味だ。 中国から来る知識人の中には、「国民党が大陸の政権を奪えばいいのに」という人がいるという。そのたびに彼女はこう答える。「要らないわ、あんな大きなもの…」(了)
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