<アーカイブへ>この冬の寒さはこたえる。東京「ネズミ・ランド」に近いショッピングセンターでよくみかける「ホームレス」がいる。トレードマークは「山羊ヒゲ」と書けば貧相なイメージを想像するだろうがそうではない。細身の長身でこぎれいな装い。50歳代半ばだろう。一階ホールのイスを指定席にいつも背筋を伸ばし読書している。一度目と目が合ったことがある。透明で澄んだまなざしでみつめられると、こちらの濁った心を見透かされているような気がして目をそらした。そんなことがあってから彼のことが気になり始めた。寒空の下、いったいどこをねぐらにしているのだろう。
遠い世界の話と思っていたら、身近にも家を追われた友人がいた。その友人から1年ぶりに連絡があり、下町の居酒屋で会った。何度も職を変えてから妻との折り合いが悪くなったと聞いていたが、結局離婚したという。夫婦仲が悪くなったころから酒量が増え、抗うつ剤の治療も受けたことも。離婚してマンションを引き払い家も失った。一泊2000円の山谷の簡易宿泊所に泊まったが、今は家賃5万円の六畳一間のアパートに住んでいる。中国語に英語と語学は堪能でも、50歳後半になれば簡単に職は見つからない。 別の知人は、DVを繰り返して警察沙汰になったあげく精神病院に3ヶ月入院した。中東やパリ特派員を務めた大手メディアを定年退職後、テレビ局で翻訳をしていたが、職場の人間関係がうまくいかず辞めた。山の手の高級住宅街にある家で酒を飲んでは妻に暴力を振るった。堪えかねた妻は家を出て身を隠したものの、いつの間にか探し当てられまたDV。警察に通報され23日間拘留された。その後、酒以外口にせず栄養失調に。自転車に乗って転倒し通りがかりの小学生に助けを求めたのに、気味悪がられ放置された。こちらも離婚、アラビア語ができる前妻はスーパーのレジ打ちで糊口をしのいでいる。 二人とも一流大学を卒業し、社会的地位と収入・財産に恵まれた「エリート」。人当たりはよく、周囲の人間の評判もまずまずだっただけに「どうして彼が…」と話題になった。そう、みんな他人の不幸が大好き。不幸の主人公はセレブであればあるほど価値が上がる。百億円を超すカネを関連会社から借り、カジノにつぎ込んだ製紙会社の三代目会長はその代表である。歌舞伎の女形にしたいくらいの顔立ちに東大法学部卒の大金持ちとあって、みんな彼の逮捕を待ちかまえていた。メディアが期待する究極の「不幸セレブ」は、雅子さん以外考えられない。嫁姑争いに弟夫婦との確執までからみ、週刊誌はこれでもかこれでもかとばかり、読者の欲望を駆り立てる。「適応障害」とされる病気は、離婚か皇室離脱すれば直るに違いない。一人娘も明るく元気になるだろう。離婚は不幸ではなく治療である。残された夫はともかく…(了)
0 コメント
返信を残す |