岡田 充の海峡両岸論
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第148号 2023・3・18発行

3/18/2023

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「国共合作」で政権交代狙う中国
習近平が台湾民衆に平和攻勢

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習近平中国国家主席が2023年初めから、台湾民衆に向けて「両岸は親しい家族」など温和なメッセージを発信し「平和攻勢」を展開している。2月には国民党訪中団を中央と地方リーダーに会談させて厚遇。台湾次期総統選(2024年1月)で国民党にも勝機ありとみて「国共合作」による政権交代の可能性を模索しているのだ。今年初めからの中国指導部の台湾対応の変化をトレースする。(写真 干支は寅から兔へ 中国の年賀カードから)
「見解の相違は当然」
「中国は広く、人々はそれぞれの望みを抱き、物事への見方が異なるのは当然です。だから、意思疎通によって共通認識を凝集させねばなりません」。微笑みながらTVを通し台湾民衆に語りかけるのは習近平。2023年の「新年のあいさつ」[i]の一コマだ。
続けて習は「海峡両岸は一つの親しい家族。両岸同胞が向き合って歩み寄り、手を携えて前進し、中華民族の末永い幸福を共に創造することを心より望んでいます」と述べた。「統一」にも「武力行使」にも一切触れない、非政治的で温和なメッセージだ。
2022年の「新年のあいさつ」[ii]では「祖国の完全統一実現は、両岸同胞の共通の願い。すべての中華の子女が手を携えて前進し、中華民族の素晴らしい未来を共に築くことを心から期待します」と述べていた。統一を主張し、中国の統一戦略の受け入れを台湾側に迫る内容だった。
全人代でも「平和統一」強調
 平和攻勢は「新年のあいさつ」だけではない。3月5~13日まで北京で開かれた全国人民代表大会(全人代=国会)での李克強首相の「政府活動報告」の内容もチェックしよう。報告の台湾部分の全文は次の通り。
―われわれは新時代の党の台湾問題解決の基本方策を貫徹し、一つの中国の原則と「92年コンセンサス」を堅持し、「独立」に反対し統一を促進し、両岸関係の平和発展を推進し祖国の平和的統一への道を歩む。両岸の同胞は血がつながっており、経済と文化の交流、協力を促進し、台湾同胞の福祉を増進する制度や政策を充実させ、両岸が共に中華文化を宣揚し、心を合わせて復興の偉業を創造することを推進する― 
「独立反対」「統一促進」の基本方針を強調しているが「武力行使の選択を放棄しない」や「外部勢力の干渉に断固反対」など強硬な表現は登場しない。2020年の活動報告以来「平和統一」の「平和」の二文字が消えていたのに対し、今回は「平和発展」と「平和統一」と「平和」を強調したのが目立った。
「平和」の二文字が消えた理由について、日本メディアの中には、「武力統一も排除しない」方針を示したとみる向きもあるが「誤読」であろう。中国は米中が国交正常化した1979年以来、「平和統一」政策に方針転換した。習が2019年に発表した台湾政策「習5項目」[iii]も平和統一宣言ともいうべき内容だった。全人代の政府活動報告で「平和」の文字が消えたからといって方針展開の根拠にはならない。米台に対する「嫌がらせ」「警告」の意味が強い。

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「前例のない厚遇」
 「新年のあいさつ」に続いて、中国指導部は2月8日から17日まで国民党の夏立言副主席(副党首)らの代表団を受け入れた。一行は2月9日、中国の台湾政策の実務上責任者に就任したばかりの(22年末)宋涛・国務院台湾事務弁公室主任(前党中央対外連絡部長)を皮切りに、10日には共産党序列4位の王滬寧・政治局常務委員とも会談した。
一行はこの後北京、上海、重慶の各直轄市と江蘇、湖北、四川各省を回り、20回党大会で選出された地方トップと会談した。中国の各地方は、国民党首長の台湾地方政府との間で、農水産物の輸入などを通じ交流を深めているから、地方訪問には政治的意味が込められているのだ。(写真 宋涛氏(右)と会談する夏副主席 国民党HP)
台湾外交部出身の夏氏は外交経験が長く、一行には馬英九政権のブレーンを務めた両岸問題専門家の趙春山氏も含まれていた。夏氏は22年8月10日にも訪中したが、ペロシ米下院議長の台湾訪問後の大規模軍事演習の時期と重なったため、高官会談は実現せず、今回の中国側対応は「前例のない厚遇」になった。
危機回避の国民党を強調
まず序列4位の王氏との会談から振り返える。王氏は学者出身で江沢民、胡錦涛、習近平三代の下で、政治理念とイデオロギーを担当する「理論的支柱」とされてきた。3月10日には「全国政治協商会議」(政協会議)主席に就任した。
中国の国家機構の中で政協会議主席は、台湾問題が所管のひとつ。国民党のプレスリリースによると、夏が王に強調したのは、民主進歩党(民進党)の陳水扁政権(2000~2008年)下で両岸関係が緊張していた時期、国民党が果たした役割だった。
当時の連戦・国民党主席は、陳政権が第2期目入りした直後の2005年4月に訪中、胡錦涛総書記との歴史的な「国共トップ会談」を行った。
夏は、「両岸関係が現在と同じように緊張していた情勢下で、国民党は民衆の平和への渇望に答え、『氷を割る旅』によって一触即発状態だった危機を回避させた」と語った。その後、陳政権は露骨な台湾独立政策を展開し、頼りの日米両政権からも見放され2008年の総統選挙で、国民党の馬英九総統の政権復帰を許すのである。
「共通の敵」は誰か?
夏が何を訴えたいのか分かると思う。次の総統選挙で、国民党の政権復帰を実現するため、「国共合作」をやろうというのだ。これに対し王氏は「台湾の独立と外部勢力の干渉に断固として反対する」と応じた。
国共合作の「共通の敵」として、台湾独立派と外部勢力による干渉を挙げたのだ。「外部勢力」とは主として米国を指すが、政策内容や国際政治の局面によっては日本が入る可能性もある。先に紹介した「習5項目」の第3項には、武力行使を否定しない対象として「台独勢力と外部勢力の干渉」が挙げられている。
政権交代という目標実現のため「国共合作」を訴えたという評価は「少し大袈裟では」という声が聞こえそうだ。確かに、過去2回の国共合作は、歴史的転換につながる重大事だった。
統一否定の「大事」
「第1次国共合作」(1924年1月~27年7月)は、中華民国建国の父、孫文がソ連の働き掛けで実現したが、蔣介石らによる反共クーデターで解消した。第1次合作の「共通の敵」は軍閥だった。国共両党は1937年9月、日中戦争拡大を受け日本軍国主義を「共通の敵」に第2次合作を成立させた。日本の敗戦でその目的は実現したが、国共両党は46年夏内戦状態に入り第2次合作は崩壊した。
この二つの「大事」に比べれば、確かに政権交代は「小事」にみえるかもしれない。だが、北京はバイデン米政権が蔡英文政権と二人三脚で進める対中政策の核心は、「一つの中国」政策の空洞化、骨抜きにあるとみている。
それは中国の建国理念の柱であり、歴史的任務である「台湾統一」の全面否定にほかならない「大事」なのだ。だから中国は、「一つの中国」をめぐる攻防を、歴史的意義のある戦いと見做している。
特に、長期低落傾向が続き、有力リーダー不在の国民党だけに、政権復帰の可能性がわずかでもあれば、またとないチャンスとみて不思議ではない。
『平和、安定、発展』が主流民意
中国の統一戦線工作は「共通の敵」と「民衆」を分断し、民衆を味方につけることが基本政策だ。習ら中国指導部の平和攻勢はあくまで台湾民衆に向けられている。民衆向けの温和なメッセージという変化を解くカギは、2022年11月の台湾統一地方選挙での民進党の敗北にある。
台北を含む21県・市の首長選で、野党・国民党が1増の13ポストを得たのに対し、民進党は1減の5ポストと結党37年以来の惨敗を喫した。敗因の一つは、蔡英文総統が選挙戦終盤、劣勢挽回のため、「自由と民主の最前線に立つ台湾に世界中が注目している」と、「抗中保台」(中国に対抗し台湾を守る)を争点化したこととされている。総統選挙と地方選挙では、投票行動の基準が異なるのに中央レベルの争点を持ち出し失敗したということだ。
夏と会談した宋涛は2023年初め、両岸関係の専門誌[iv]に「台湾地方選挙は、『平和、安定、発展』が台湾社会の主流民意であることを示した」と書き、「台湾独立勢力が策を弄した『抗中保台』は人心を得られず、独立を企む陰謀は失敗した」と分析する文章を発表した。宋はこの文章で「平和」を7回も使った。
蔡政権の下で陳水扁時代以上に険悪化した両岸関係を、国民党政権の復帰によって改善し、「平和、安定、発展」を望む主流民意に沿って安定させること。それが双方にとって「ウィンウィン」になる、という目論見である。

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「ゲームチェンジャー」
台湾といえば、「緊張激化」のイメージが思い浮かぶのではないか。しかし国民党の馬英九政権時代(2008~2016年)は、緊張が緩和し航空直行便が解禁され、経済連携協定の「経済協力枠組み協定(ECFA)」も締結し、馬氏と習氏のトップ会談[v](2015年)まで実現した。
台湾の輸出額の約4割は大陸向けであり、減少しつつあるとはいえ投資の3割はやはり大陸向けで、台湾の経済的生存は大陸抜きには語れない。大陸に常駐する台湾ビジネスマンは7~80万人に上る。
政権交代となれば、台湾をめぐる米中対立の様相は大きく変化する。中国は、米日台の軍事的協力関係に「くさび」を打つことができる。さらに、両岸関係が改善すれば、台湾有事が切迫という情勢認識も後退する可能性が高い。
「台湾有事」を念頭に置いた岸田文雄政権の軍拡路線に、日本でも疑念や風当たりが強まるだろう。その意味で台湾の政権交代は、東アジア政治の「ゲームチェンジャー」になるかもしれないのだ。(写真=バンクシー作の「ゲームチェンジャー」)
バイデン政権もそのことを承知で、総統選に向けて中国から強硬対応を引き出す挑発を仕掛け、中国の脅威を煽って政権継続を促すだろう。3月末には蔡総統が中南米訪問の往復の際米国に立ち寄り、カリフォルニアでマッカーシー下院議長と会談の可能性がささやかれる。これをめぐり米中台の激しい宣伝戦・サイバーが展開されるだろう。総統選が近づけば近づくほど、米中双方が妥協できる選択肢の「のりしろ」は狭まる一方になる。
ダークホースは侯友宜・新北市長
最後に、投票まで一年を切った台湾総統選情勢に簡単に触れよう。
民進党の最有力候補は頼清徳主席(副総統)だが、弱点は台湾独立志向が極めて強いこと。総統選でも「抗中保台」を繰り返せば、有権者の反発を買い苦戦は避けられない。頼氏は22年大晦日、中国との緊張緩和を目指すとみられる「和平保台」というスローガンを口にした。しかし、今度は逆に台湾独立を志向する「岩盤支持層」の反発を招いた。
台北市長を二期務めた「民衆党」の何文哲氏の出馬も確実視される。問題は国民党候補者。国民党は地方選でポストを増やしたが、「勝利したわけではない」と公式に認めている。朱立倫・国民党主席は2016年の総統選で惨敗。2020年選挙では「ポピュリスト」政治家といわれる韓国兪・元高雄市長が出馬したが、政治家としての能力の「メッキがはがれ」敗走した。
今回「ダークホース」として浮上しているのが、台北のベッドタウン「新北市」市長に再選された侯友宜氏。候氏は「警察庁長官」相当する職を経験した警察官僚で、地元では民進党支持層を含め圧倒的支持がある。警察官僚出身と言えば堅いイメージが付きまとうが、台湾ジャーナリストによると、「政治家と異なり実直でうそをつかない」のが人気の理由という。
民進党系の「台湾民意基金会」が2月21日発表した最新世論調査では、選挙が賴清德、侯友宜、柯文哲による「三つ巴」の争いになった場合,32.4%の侯氏が、27.7%の賴氏,19.5%の柯氏をリードする結果がでた。ただ候は新北市長に再選されたばかりで、市長職を投げ出し総統選に出馬すれば、マイナスに働く可能性もある。国民党内の団結にヒビ入る可能性もある。この段階の世論調査は「人気投票」の域を出ないことを付け加えておこう。(了)


[i] 習近平国家主席の「2023年新年のあいさつ」
国家主席习近平发表二〇二三年新年贺词 — 中华人民共和国外交部 (fmprc.gov.cn)

[ii] 習近平主席の「2022年新年あいさつ」
習近平主席の2022年新年祝辞全文 - 中華人民共和国駐日本国大使館 (china-embassy.gov.cn) 

[iii] 岡田充(海峡両岸論第99号「30年内の統一目指すが急がない 習近平の新台湾政策を読む」第99号 2019.02.14発行 (weebly.com)

[iv] 宋涛・台湾事務弁公室主任の両岸関係専門誌への寄稿
新任中央台办、国台办主任宋涛新年发文,透露重要信号_腾讯新闻 (qq.com)

[v] 岡田充(海峡両岸論第60号 「国際関係から読む説く首脳会談 米主導の冷戦構造の変化が背景」第60号 2015.11.10発行 (weebly.com)
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第147号 2023・2・12発行

2/12/2023

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人口減少でも続く「中国の時代」
途上国台頭で半世紀後は多極化 

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14憶人と世界最多の人口を抱える中国で人口減少が始まり、「中国台頭」時代はピークを越えた。少子高齢化が経済低迷につながるのは日本をみても明らかだが、米金融大手は中国が2035年には国内総生産(GDP)で米国を抜き世界1位の経済大国に躍進、半世紀後も「中国の時代」は続くと予測する。米中対立を軸に世界秩序の変化を見ることに慣れた現風景も、半世紀後は中国、インド、アフリカの新興国が、現在の先進国に代わって多極化した世界(写真 多極化を象徴するG20の2022バリ・サミットのロゴ)に置き換わっているはずだ。
61年ぶり減少、成長鈍化
中国国家統計局は2023年1月17日、22年末の中国の総人口(台湾、香港、マカオを除く)が、前年比85万人減り14億1175万人になったと発表した。減少は1961年以来だ。この時点でのインド推計人口は14億1200万人で、世界最多人口はインドになったもようだ。
中国の人口減少は、同じ1月17日に発表された22年のGDP(速報値)が前年比3・0%増と、政府目標の「5・5%前後」に届かなかったことから、人口減少が経済成長の足かせになるとみて、今世紀半ばに「世界一流の社会主義強国」になるという中国戦略目標の実現を危ぶむ声も出始めた。
 中国の人口減少は以前から指摘されてきた。国連が22年7月に発表した「世界の人口予測2022」[i]は、インドの人口が23年に中国を抜き世界一になると予測している。
中国の人口問題と政府の対策の経緯をざっと振り返る。中国で人口が減ったのはこれまでは1960年と61年の二回。「建国の父」毛沢東が発動した鉄鋼や穀物の増産計画である「大躍進」政策導入後、中国を襲った飢饉によって2000万人ともされる大量餓死者を出したのが原因である。
少子化対策に特効薬なし
その後、文化大革命(1966~76年)を経て1979年、中国政府は人口爆発を抑制するため、都市部で夫婦が産める子どもを1人に制限する「一人っ子政策」を導入。それに加え都市部での非婚化・晩婚化の要因も手伝い、生産年齢人口(16~59歳)は2007年をピークに減少に転じている。このため習近平指導部は2016年「一人っ子政策」を廃止、21年には産児制限を事実上撤廃したものの、少子化に歯止めはかかっていない。
さらに少子高齢化と人口減少が経済衰退を招くとして2021年、3人目の出産を解禁、小中学生向けの学習塾を規制し、家計の教育負担を和らげ、出生率向上につなげようとした。地方も出産奨励策を次々打ち出し、広東省深圳市は3人目を産むと最大3万7500元(約75万円)を補助する制度を導入。浙江省杭州市は23年から体外受精の費用を公的医療保険の対象にする方針を打ち出した。
定年延長も検討されている。中国の定年は原則男性60歳、女性50歳(幹部職は55歳)。2035年には60歳以上の人口が4億人を超えて全人口の3割超を占める見込みのため、政府は定年延長の検討に着手した。日本でも「児童手当」「子供手当て」の支給や定年延長策の導入など、一連の少子化対策がとられてきたが、少子化に歯止めをかける「特効薬」はないのが世界の実情。

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米国はGDP第3位に
中国に先立ち少子高齢化した日本との比較で「2020年の中国の人口の年齢構成は1990年前後の日本に近い。1990年以降、日本経済は長期低迷に陥った。少子高齢化がその一因」と指摘するのは、経済産業研究所(RIETI)コンサルティングフェローの関志雄氏。
「少子高齢化が加速する中国」[ii]と題する関氏のペーパーを読むと、中国も日本同様「失われた30年」という衰退の道をたどり、豊かな先進国になる前に高齢化が進行する「未富先老」時代に入るのではとの疑念が沸いてくる。
そんな疑念を裏付ける予測もあった。日本経済研究センターは2020年、中国は2029年に米国GDPを抜き世界1位の経済大国になると予測していた。しかし22年11月になって、「2035年までに中国の名目GDPが米国を超えることは標準シナリオ(保守的な予測)でもない。中国が米国を超えることはない」という新予測[iii]を発表した。
一方、米金融大手「ゴールドマン・サックス」(写真 同社の新ロゴマーク)は22年12月、約50年後までの世界経済に関するリポート[iv]を発表した。中国は2035年にGDPが米国を抜いて世界第1位の経済大国に躍進。2075年までの約半世紀にわたり「中国の時代」は続くと予測する
報告は、世界経済は今後10年、3%をやや下回る成長を遂げた後に下降をたどるとみる。その原因として世界人口の伸びが1%に鈍化し、75年には増加が止まって減少に転じることを理由に挙げた。ここでも人口減が経済成長の制約要因になっている。
中国のGDP成長率は、2020年代は4・2~4・0%で推移、2030年代(3・1%)2040年代(2・4%)2050年代(2・1%)と次第に下降する。この間、米国GDP成長率は1・7~1・2%台に低迷。2075年には中国(GDP57兆ドル)だけでなく、52.5兆ドルのインドにも追い抜かれ、51.5兆ドルの米国は世界第3位に転落すると予測した。米国の時代は名実ともに幕が引かれる。
グローバルサウス躍進、凋落の日本
リポートの予測データは、半世紀後の世界像として主要7か国(G7)を中心とする現在の先進国が後景に引き、代わって中国をはじめ人口増加を続けるインド、インドネシア、ナイジェリアなど途上国群の躍進を示している。「大国の興亡」が、半世紀にわたって目の前で繰り広げられることになる。
特に凋落が目立つのが日本。岸田文雄首相は事あるごとに「日本はアジア唯一のG7メンバー」と誇らしげに語る。しかしリポートは、日本は2050年インド、インドネシア、ドイツに抜かれGDPで世界第5位に転落。2075年にはナイジェリア、パキスタン、エジプト、メキシコにも抜かれ12位になると予測する。もはや「先進国」などではなく、そのころ「G7」自体が意味を失っているだろう。「グローバルサウス」と呼ばれる南半球途上国の躍進である。
日本は12位に転落しても、一人当たりGDPは8万7000ドルと中国の5万5000ドルを超えているのが「救い」かもしれない。ただアジア諸国の中では、韓国(10万1000ドル)に抜かれ、「アジア唯一」のブランドはもはや通用しない。
ゴールドマン・サックスの予測が的中するとは限らない。前出の関氏は、中国の今後の経済政策上の問題点として、「国内では公有制への回帰、対外関係では米中経済のデカップリングが進む中で、政府の産業政策の重点がむしろ国有企業と自主開発能力の強化に置かれているため、成長回復への道は困難を極める」と予測する。
ただ、中国は2012年からの習近平時代から、投資と市場をユーラシア大陸からアフリカに拡大する「一帯一路」を展開してきた。国内では政府主導でAIを駆使した最先端技術による産業高度化を図る政策など着々と手を打ってきた。超大規模市場という優位性もある。構造改革に失敗した日本とは対照的だ。
 自己を中国に投影する誤り
米中対立の中、米国は同盟国日本を巻き込みながら、台湾有事を煽って中国を軍事抑止する世界戦略を今後10年にわたって展開する計画。建国以来、分断要因を内政に抱えてきた米国、常に「敵」を外部に求め、団結のエネルギーにしてきた。
さらにグローバルリーダーの地位を確立するため、ベトナム、イラク、アフガニスタンなどで軍事侵攻と軍事支配の経験を積み重ねてきた。米国の軍事・情報サークルはかつての自己体験を、中国にそのまま投影して牽制する軍事優先思考が強い。中国は歴史的に見ても、力の源泉は重商主義的な経済にある。軍事力を背景に「アメリカンスタンダード」に代わり「チャイナスタンダード」を世界に広げる意思はない。世界秩序についての中国の主張は「多極化」にある。
フランスの人口歴史学者、エマニュエル・トッド[v]は、中国人口減少について「将来の人口減少と国力衰退は火を見るより明らかで、単に待てばいい。待っていれば、老人の重みで自ずと脅威ではなくなる」と、中国脅威論を否定する。
 岸田政権はバイデン政権主導の下、台湾有事を念頭に、大軍拡路線と敵基地攻撃能力の保有という歴史的な政策転換に乗り出した。人口減少にもかかわらず、今後半世紀にも及ぶ「中国の時代」を前に、効果も意味もない軍事優先政策を見直さなければ、凋落に歯止めはかからない。(了)


[i] (World Population Prospects 2022)

[ii] https://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/221027ssqs.html)

[iii] 中国GDP、米国超え困難に | 公益社団法人 日本経済研究センター:Japan Center for Economic Research (jcer.or.jp)

[iv] (The Path to 2075 — Slower Global Growth, But Convergence Remains Intact)

[v] 「中国が脅威になることはない」知の巨人エマニュエル・トッドが語った「世界の正しい見方」 | 文春オンライン (bunshun.jp)
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第146号 2023.1.8発行

1/8/2023

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「台湾有事」はどのように作られたか
日本衰退を加速する岸田軍拡路線

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岸田文雄政権は2022年12月16日、専守防衛を空洞化する敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有をはじめ、防衛予算を5年で国内総生産(GNP)比2%に倍増し、日米統合抑止力(軍事一体化)の強化を柱にする「国家安全保障戦略」(NSS)など安保関連3文書を閣議決定した。(写真 発表する岸田首相 官邸HP)大軍拡路線への転換を正当化するのが「台湾有事論」だ。それがどのようにして作られたかのか、バイデン米政権の「グランドデザイン」を基に、日米両政府の2年の動きをまとめる。米戦略に追従する大軍拡路線には対中抑止効果などなく、逆に中国敵視によって東アジアの緊張を激化させるだけである。雪だるま式に増えかねない軍事予算圧力から「失われた30年」を漂流する日本の衰退はいっそう加速する。
米の挑発と受け身の中国
米中の戦略的対立はトランプ政権下の2018年、米中貿易戦として始まる。対立テーマはその後、香港抗議活動、コロナ発生源問題、新疆ウイグル自治区の人権問題などへ同時並行的に変化、2020年からは中国が「核心利益」と位置づける台湾問題が最大の対立課題になった。
台湾問題の経緯を振り返れば、米国の意図的挑発に対し中国が対抗措置で報復する「因果関係」がみえてくる。米中対立で中国側は「受け身」の立場と分かる。
台湾問題をめぐる米挑発をみる。トランプ政権末期から
  1. 金額、量ともに史上最大規模の台湾への武器売却
  2. 閣僚・高官を繰り返し台湾に派遣
  3. 軍用機を台湾の空港に離発着
  4. 米軍艦の台湾海峡の頻繁な航行
  5. 米軍顧問団が台湾入り台湾軍を訓練―などである。
これに対し中国軍は20年8月から軍用機を、台湾海峡の「休戦ライン」と米台が主張する「中間線」を越境させ、軍事演習を波状的に行う対抗措置を採ってきた。2021年に誕生したバイデン政権も、台湾問題を中国との最大の争点として中国が武力行使に出ないギリギリの挑発を仕掛けてきた。
中国の論理を説明すると、「核心利益」に関しては、交渉による妥協や譲歩を一切認めないため、強硬反応以外の選択肢はない。バイデンもそれを見越して挑発を繰り返してきた。挑発の狙いのひとつは、中国が許容できない一線を意味する「レッドライン」がどこにあるかを探ることにあった。

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「インド太平洋戦略」がグランドデザイン
台湾問題をめぐるバイデン政権の対中政策は22年2月に発表した「インド太平洋戦略」[i]に詳しい。(写真 戦略に関するISAS Special Reportsの表紙)バイデンは同10月「国家安全保障戦略」を発表したが、そのアジア太平洋版がこのリポートであり、対中戦略の「グランドデザイン」と言える。
戦略は、米中対立を「自由な世界秩序を求める」理念と「抑圧的な世界秩序を求める」理念との戦いと規定する。「民主vs専制」という二元論だ。パワーバランスについて「米国単独では中国と対抗できない」との認識から、日米同盟をはじめ同盟・友好国との「再編強化がカギ」と強調する。バイデン政権が誕生時に発表した外交政策の①同盟関係の復活②多国間協力の回復―が、対中政策でも具現化されたのである。
具体的には、台湾問題で対中抑止を強化するこの戦略を「少なくとも10年に及ぶ長期計画」と位置付け、次の3点を挙げた。
  1. 対中抑止を最重要課題とし、同盟国と友好国が共に築く「統合抑止力」を基礎に、その中核として日米同盟を強化・深化。日米豪印4か国の「クアッド=QUAD」と米英豪3国の「オーカス=AUKUS」の役割を鮮明にした
  2. 「台湾海峡を含め米国と同盟国への軍事侵攻を抑止する」と明記、軍事的な対中抑止の前面に台湾問題を据えた
  3. 米軍と自衛隊との相互運用性を高め「先進的な戦闘能力を開発・配備する」と明記した
日米安保を「対中同盟」に
ここで「インド太平洋戦略」に基づき、日米両政府が台湾有事に向け、具体的にどのように連携を深化していったかを振り返る。
まず取り上げるのは2021年4月、ワシントンで開かれた菅義偉・バイデン大統領の日米首脳会談である。会談は
  1. 台湾問題を半世紀ぶりに共同声明に盛り込み、日米安保の性格を「地域の安定装置」から「対中同盟」に変えた
  2. 日本が軍事力を飛躍的に強化する決意を表明
  3. 台湾有事に備えた「日米共同作戦計画」の策定―で合意[ii]した。
日米首脳会談の共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」が書き込まれたのは1969年11月、佐藤栄作首相とリチャード・ニクソン大統領による首脳会談の共同声明以来、52年ぶりだった。
この首脳会談では、沖縄施政権の日本返還で合意した。当時ベトナム戦争遂行中の米政府は、沖縄返還後も米軍基地の自由なアクセスを担保する必要があり、台湾問題の重要性を声明でうたったのだ。一方、菅・バイデン首脳会談では、台湾有事に向けた日本の主体的関与を具体化するため、南西諸島のミサイル要塞化を加速する必要があった。半世紀前も今も変わらないのは、米軍にとっての沖縄基地の重要性である。
ここで思い出すのは首脳会談前月の3月、前米インド太平洋軍司令官のデービッドソン海軍大将が米上院軍事委員会で、「中国軍が27年までに台湾に侵攻する可能性がある」と述べた証言。証言時期から判断すれば、その狙いが、日米首脳会談に向けて台湾有事を緊急課題にし、日米安保の性格変更の「地ならし」と、対日世論工作にあったことが分かる。
安保3文書は「中間決算」
21年10月に菅政権を引き継いだ岸田も、日米合意を忠実に推進する。22年5月23日東京で開かれた岸田・バイデン首脳会談を振り返ると、台湾有事をめぐる日米の「戦争シナリオ」が、まるで坂道を転げ落ちるように完成していったことが分かる。この時の共同声明は
  1. 日米同盟の抑止力、対処力の早急な強化
  2. 日本の防衛力を抜本的に強化し防衛費を増額
  3. 日米の安全保障・防衛協力を拡大、深化
  4. 米側は日本防衛への関与と、(核を含む)拡大抑止の再確認―をうたった。
安保関連3文書が、米巡航ミサイル「トマホーク」の導入による「敵基地攻撃能力」の保有と並んで、軍事予算のGDP(国内総生産)比2%倍増を明記した背景がよくみえる。3文書では日米軍事一体化のため、自衛隊に有事の際の「統合司令部」新設もうたわれた。
政権がメディアと一体になり台湾危機を煽り、それが中国脅威論の翼賛化に拍車をかけていった。わずか2年で「戦争準備国家」に移行・変質させていく過程は、1930年代の再現すら思わせる。安保3文書は、バイデン政権のグランドデザインの「中間決算」に過ぎない。

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独立阻止に照準、統一急がず
日米が煽る中国の「台湾侵攻」について、中国はどう考えているのだろう。習近平・党総書記は、共産党20回党大会(22年10月16~22日)初日の党活動報告[iii]で、台湾政策について次のように述べた。
「台湾問題の解決は中国人自身のことであり中国人自身が決めるべき。最大の誠意をもって最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す。その対象は外部勢力の干渉と、ごく少数の台湾独立分裂勢力と分裂活動であり、広範な台湾同胞に向けたものでは決してない。祖国の完全統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」。
習演説についてNHKニュース[iv]は、習が「統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示した」と伝えた。共産党の台湾政策は「平和統一」であり、もし「武力統一」に方針転換したなら歴史的ビッグニュースだ。
確かに誤解を招きかねない表現だと思う。だがよく読めば、武力行使の対象を「外部勢力の干渉と、ごく少数の台湾独立分裂勢力と分裂活動」としている。統一の対象である「広範な台湾民衆に向けたものではない」点がポイントだ。「武力統一」を容認したのではなく、米国や台湾独立派に向け「武力行使」を否定しない、従来方針の繰り返しにすぎない。
メディアは、習発言をとらえ「2024年までに台湾に侵攻も」[v]などと台湾有事を煽った。だが中国が台湾統一を急ぐ主体的・客観的条件は揃っていない。大会は党規約も改訂し「台湾独立に断固として反対し抑え込む」という表現を追加した。だが統一を急ぐ表現や武力行使を容認する記述は一切ない。(写真 中国共産党規約の表紙)
党規約について「日経」は「習政権は共産党規約を改め、台湾統一を3期目の最重要目標に掲げた」と書く。これも明らかに踏み込み過ぎコメント。繰り返すが党規約には、習演説にある「統一を実現できる」という文言すら入らなかった。仮にこれを入れれば、5年の任期中に、統一を実現しなければならない「縛り」になってしまうためだろう。
習は2022年末に発表した「23年の新年のあいさつ」[vi]で「両岸は一つの家族。両岸同胞が、中華民族の幸福を築くため手を携えて共に歩むことを心から願っている」と、平和統一に触れずに訴えた。22年のあいさつにはあった「祖国の完全統一の実現は、両岸同胞の共同の願いだ」のという表現も消え、台湾人の情理に訴える内容である。これから判断すれば、2027年までの5年間は独立阻止に照準を合わせ、統一は急がない方針とわかる。
統一は「大局」に従属
台湾統一の重要ポイントは主体的・客観的条件にある。統一は、帝国主義列強によって分断・侵略された国土を統一し、「中華民族の偉大な復興」を実現する建国理念の重要な柱。従って統一の放棄はあり得ない。
習は前回19回党大会の党規約に、党の「歴史的三大任務」として①近代化建設の促進②祖国統一の完成③世界平和と共同発展を促進―を挙げた。この記述は、今回の改定党規約でもそのまま残された。3大任務に優先順位はあるのか。統一は、経済発展を保証する平和的国際環境の実現という「大局」に従属する任務であり、優先順位は高くない。経済発展を犠牲にしても統一を断行するわけにはいかない。
中国の統一戦略は、1979年の米中国交正常化を境に「武力解放」から「平和統一」に変わった。22年8月に発表された最新「台湾白書(台湾問題と新時代の中国統一事業)」[vii]も平和統一以外の選択肢には一切触れていない。習の台湾政策「習5点」[viii](2019年1月)は、台湾問題の主要敵を「外部勢力の干渉」(アメリカ)と「台湾独立」(蔡英文政権)に絞り、武力行使を否定していない。その理由は「武力行使を否定すれば台湾独立勢力を勢いづかせるだけだ」(鄧小平が福田赳夫との会談で 1978年)とされてきた。
中国政府は2005年、武力行使の条件を定めた「反国家分裂法」を制定した。先の「台湾白書」は、武力行使を「最後の手段」とし、「武力行使を準備するのは、平和統一を実現するため」とすら書く。つまり「武力統一」と「武力行使」は同義ではないのだが、この二つを混同する中国・台湾問題専門家は少なくない。
武力行使は一党支配を危機に
中国にとって武力統一も武力行使も「悪手中の悪手」。その理由を中国の主体的・客観的条件から考えよう。
第1に軍事力という主体的要因。中国は軍艦数や中距離弾道ミサイルの数で、米国を上回るが、総合的軍事力では依然として大きな開きがある。ロシアがウクライナ侵攻から1年を経ても制圧できないことを考えれば、200キロ離れた台湾海峡を渡海し本島制圧に成功するのは極めて難しい。米中衝突は核戦争を覚悟する必要があり米中共に衝突は望んでいない。
第2は、「統一支持」がわずか3~5%程度にすぎない「台湾民意」。民意に逆らって武力統一すれば台湾は戦場化する。仮に武力制圧に成功しても、国内に新たな「分裂勢力」を抱えるだけであり、統一の「果実」はない。
第3に客観的条件。武力行使への米欧諸国の反発と制裁は、ウクライナ問題の比ではないはずだ。バイデンは、武力行使を奇禍として中国を完全に「へこます」制裁を発動するはずだ。武力行使は、「一帯一路」にもブレーキをかけ、3年に及んだ「ゼロコロナ」政策によって3%台に落ちこんだ成長の足をさらに引っ張る。習は、中国を社会主義の「新発展段階」に入ったとし、「素晴らしい生活への需要を満たす」ことを新任務に据えて「共同富裕」を提起した。
成長が止まり「新発展段階」が行き詰まれば、共産党の一党支配自体が揺らぐ恐れがある。「武力行使」を否定しないのは、米台の対中挑発への警告の意味を越えない。
「一つの中国」空洞化と「代理戦争」
バイデン政権が日本と共に中国を軍事抑止しようとする「グランドデザイン」は、少なくとも10年に及ぶ長期計画。日本は安保3文書によって「中間決算」を出したが、グランドデザインの長期目標はどこにあるのだろう。
その内容を明瞭に示す資料はない。ただこの2年のバイデン発言や米議会の動向から推測すると次の3点に要約できる。第1は、米政府が半世紀にわたって維持してきた「一つの中国」政策の空洞化である。第2に米日台の暗黙の同盟構築、第3としてウクライナ同様、台湾有事でも米軍を投入しない「代理戦争」である。
「一つの中国」政策の空洞化については多くの説明は要らないだろう。バイデンは22年9月18日、米TVのインタビュー番組[ix]で「我々は台湾が独立するのを奨励しないが(独立するかどうかは)彼らが自ら決めること」と述べた。台湾側が独立の意思を決定すればそれを容認するという「独立容認論」だ。
住民自決への支持であり、米民主党の伝統的政策から考えればバイデンの本音と考えていい。しかし、米国務省の公式台湾政策は①どちらか一方による現状変更に反対②台湾独立を支持しない③海峡両岸の対立は平和的に解決するよう期待―であり、バイデン発言は明らかに政策違反だ。
ホワイトハウスでアジア政策を取り仕切るカート・キャンベル・インド太平洋調整官は、発言直後に「政策変更はない」と火消しに追われた。米国の台湾問題専門家ですら発言を「中国は米国が台湾独立を支持しているとみなしており、この発言は中国に戦争を決断させかねない」と厳しく批判した。バイデンはこのインタビューでも、中国の武力行使に対し事前に対応を明かさない「曖昧戦略」を否定する発言をした。「曖昧戦略」は事実上ないと考えていい。

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台湾政策法が火種に
反中機運が超党派で高まる米議会はどうか。議会には、台湾を同盟国化して攻撃用兵器を供与、在米の台湾代表機関に外交特権を与える超党派の「2022年台湾政策法案」[x]が上程され、22年9月上院外交委員会を通過した。法案は、中国に対する「米台統合抑止」の必要性も挙げ、米台による対中「戦争計画」を提言している。将来的には、米国を「要」に、米日台の軍事同盟化を狙う内容である。(写真 ワシントンDCの米議会)
法案が成立し米政府が条文を忠実に履行すれば、米政府の「一つの中国」政策は、完全に空洞化する。バイデンは22年12月23日、総額約8679億ドル(約114兆円)に上る23会計年度(22年10月~23年9月)国防権限法案に署名し成立させた。この中の台湾支援の柱は、①27年度までの5年間で最大100億ドルの軍事資金援助を供与②2024年の環太平洋合同演習「リムパック」に台湾を招待③米政府官僚を台湾に最大2年派遣するフェローシップ計画の創設―など。
台湾政策法が、23年1月から始まる共和党主導下の下院を通過すると、11月バリ島での米中首脳会談での「和解」[xi]を損なう恐れがある。国防権限法案は「台湾政策法」の軍事供与など一部を先取りした内容だ。
進む米日台同盟
第2は「米日台の暗黙の同盟構築」。バイデンが台湾問題を米中対立の「核心」に据えたのは、米1国ではもはや中国に対抗できないからである。米日台の暗黙の同盟化はその回答の一つである。3者の軍事協力は既に進んでいる。
アーミテージ元米国防次官補[xii]は「台湾有事があれば米国が台湾に送る武器や物資を日本で保管できるようにしたい」と明言した。米政府はウクライナ戦争の教訓から、東アジアで燃料・弾薬補給体制が「不十分」と認識し、台湾向けの弾薬・燃料を南西諸島に備蓄する方針だ。
この発言を受け、浜田防衛相も9月6日の日経インタビューで、南西諸島地域に「燃料タンクや火薬庫などを増やす」方針を言明した。水面下でも米日台軍事協力は進んでいる。インド太平洋地域で、海軍と海上法執行機関の協力をうたう米軍の「パシフィック・パートナーシップ2022」[xiii]の合同演習が22年7月、パラオ沖で行われた。海上自衛隊と米英海軍艦船に交じり、台湾巡視船が極秘裏に参加したのが一例だ。
米海軍病院船を中心とした演習では、各国の軍艦船と巡視船艇が連携し被害艦船の乗組員救助や、負傷者を病院船に移送する訓練が行われた。台湾艦の参加は、演習が「台湾有事」での負傷兵救助を想定した可能性を示唆している。
米軍投入せずアジア人同士の戦い?
米政権の対中挑発の行動パターン[xiv]を振り返れば、①米国が挑発し中国に競争するよう仕向ける②中国に軍事的、経済的に「過剰な対応」を引き出させる③国内外で中国の威信や影響力を喪失させる―が読み取れる。
それによって中国の台頭を抑え、米一極覇権を回復するのが目的だ。米国が望むのは緊張緩和ではなく緊張激化なのだ。岸田政権の安保関連3文書は、そんな緊張激化路線を側面支援する。
米政府は「台湾有事」でもウクライナ戦争同様、米軍を投入しない代理戦争の可能性を選択肢として検討している。それを想起させるのは、米軍制服トップのミリー統合参謀本部議長の米上院公聴会での発言[xv]だ。
  1. 台湾は防衛可能な島で、中国軍の台湾本島攻撃・攻略は極めて難しい
  2. 最善の防衛は台湾人自身が行うこと
  3. 米国はウクライナ同様、台湾を助けられる
米国は、約20年に及ぶアフガニスタン侵攻作戦を21年8月終結し米軍を撤退させた。内政の深い亀裂・分断に加え、未曾有のインフレ進行に直面する米国が、「民主と自由を守るため」台湾に派兵する余力などない。世論の支持も得られまい。台湾有事でも、米国は後景に引き、日台中のアジア人同士が戦う可能性がある。ウクライナ戦争同様、代理戦争こそ米国は自分の手を汚さずにすむベストの選択。その場合、日本は「ハシゴ外し」に遭う。
対中国戦争反対が74%
米国にとって台湾は、対中軍事抑止と対抗のカードである。米本土防衛という自身の安保の重要カードではない。台湾民衆もそれをよく知っている。ある台湾のTVの世論調査[vii]によると、「もし両岸で戦争が起きた場合、米国は台湾に派兵し防衛すると信じるか」との質問に、「信じる」はわずか30%で、「信じない」の55%を大幅に下回った。
では日本人にとって、台湾有事のリアリティはどの程度あるのだろう。朝日新聞が2022年12月20日付で報じた世論調査によると、「敵基地攻撃能力」の保有については「賛成」が56%と「反対」(38%)を上回った。圧倒的多数の支持とは言えないまでも、政府とメディア一体の台湾有事キャンペーンの効果の表れがみえる。
一方、公益財団法人「新聞通信調査会」の世論調査[xvii]によると、台湾有事に危機感を持つ割合は79・1%と約8割に上る。だが、中国が台湾を軍事侵攻した場合の日本の対応について、「自衛隊が米軍軍とともに中国軍と戦う」に賛成は 22.5%に過ぎず、「反対」は 74.2%に達した。
中国との戦争に、日本が参戦するのは拒否するという反応をどう見ればいいのか。回答理由は明らかではないが、軍事力では日本を圧倒する中国軍と戦っても勝ち目がないこと、南西諸島だけでなく日本全体が戦場になることへの「恐怖感」「忌避感」があるのは想像に難くない。
岸田は外相時代の2016年1月、蔡英文が台湾総統選挙で当選した際、「台湾は我が国にとって,基本的な価値観を共有し,緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり大切な友人」と、初の外相祝賀談話を出した。安倍指示に基づく談話とみられるが、台湾と共有する「価値観」を守るため、日本人の多くに参戦する覚悟などない。
多くの日本人にとって、台湾は政治的文脈からすると反中意識の裏返しであろう。米軍と共に「台湾防衛」に参戦するリアリティ(現実感)は乏しい。バイデンも岸田をあまり頼りにしないほうがいい。

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「戦争をする国」に大転換
冒頭触れたように、安保関連3文書の閣議決定(12月16日)は、台湾有事を前提に組み立てられ、大軍拡路線の下で専守防衛という憲法原則を骨抜きにする内容。これに反対する立場から私は、「平和構想提言会議」(川崎哲共同座長)の提言(12月15日)[xviii]作成に参加した。
ここで3文書と平和提言の内容を改めて紹介する。「作られた危機」である台湾有事で、日本の参戦に道を開く3文書が、日本防衛に役に立たないどころか、中国敵視によって東アジアの緊張を激化させかねないこと。歯止めない大軍拡路線は、日本衰退を一層加速させ、米国との「心中体制」に日本を追い込む危険がある。
まず安保関連3文書の骨格は次の通り。
  1.  防衛予算を5年間に国内総生産(GNP)比で2%に倍増(43兆円)
  2.  敵基地攻撃能力(スタンド・オフミサイル)を保有。国産型の改良と米国製巡航ミサイル「トマホーク」購入
  3.  アメリカ軍と自衛隊の「相互運用性」を強化、台湾有事の際、米軍と自衛隊の一体運用を可能にする組織創設。陸海空の3自衛隊部隊の統合運用を担う「統合司令部」を設置し米軍とのパイプに
  4.  対中国認識を従来の「懸念」から「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と変更
  5.  防衛移転3原則(武器輸出)の見直し検討
  6.  サイバー攻撃を防ぐため、攻撃元を監視・侵入などで対処する「能動的サイバー防御」の採用
劇的な政策変更に対する平和構想会議の提言の要旨は次の通りだ。(写真 提言を発表するメンバー 「東京新聞デジタル版」から)
  1. 「戦争しない国」から「戦争する国」への政策大変更が、国会の承認や憲法改定を伴わずに行われた手続き上の問題
  2. 「専守防衛」の憲法原則を骨抜きにし日本を世界第3位の軍事大国にする大軍拡
  3. 殺傷能力ある武器の輸出承認は、平和国家としての日本の信用棄損
  4. 軍事力中心の抑止力至上主義は、「安保のジレンマ」から軍拡の悪循環招く
  5. 米国への過度な軍事依存を正し、アジア外交と多国間主義の強化を
  6. 「攻撃用兵器不保持」の再確認を
  7. 辺野古新基地と南西諸島ミサイル要塞化の中止
  8. 米国に核兵器の先制不使用働きかけ
ガバナンスの正当性失う
提言から4つの論点を整理する。第1は「手続き」上の問題。これほどの政策変更が、国会での議論や承認を一切経ない閣議決定で行われたことは、記憶にとどめなければならない。日本のガバナンスの正当性が問われる。安倍元首相が、憲法違反の濃厚な「集団的自衛権」の行使容認を2014年、閣議決定で押し切った前例の踏襲である。
憲法の条文を変えるのを国民投票で問う「明文改憲」ではなく、「解釈改憲」で事足りるとする悪しき前例がまたも上書きされた。「戦争する国家」に変貌させることは、国民投票を通じて憲法を明文的に変えなければ許されない重大な政策変更に当たる。
第2は、敵基地攻撃能力の保有が「抑止力を高めるため」という政府の主張の正当性である。日本と中国の経済力はGDP比で「1対4」近くまで拡大している。中国は核保有国であり三隻の空母を保有する米国に次ぐ、世界第二の軍事大国。
日米は、中国がグアム米軍基地を射程にする中・短距離ミサイルを1200発保有しているとみる。一方、米国は中国を射程に収めるミサイルは配備していない。トランプ政権は2019年、米ソ中距離核戦力全廃条約(INF条約)の破棄を通告しており、バイデン政権も中距離ミサイルの東アジア配備を急ぐ。
対中軍事抑止の神話
従来の弾道ミサイルは、大気圏外に打ち上げられたミサイルが放物線を描きながら大気圏内に再突入し標的に向かう。しかし中国、ロシア、北朝鮮が実戦配備を急いでいるのは、「極超音速ミサイル」。極超音速で空を滑るように飛行するため、コースは予測できず地上や海上のイージス艦では迎撃できない。イージスアショアに至っては、金を食うだけの無用の長物だ。
中国は日本が「敵基地攻撃能力」を保有したからといって、ミサイル配備を止めない。日本攻撃は危ないとして、対日軍事戦略を見直すわけでもない。そもそも、日本が米国と共に台湾防衛のために参戦しない限り、中国が日本を攻撃する意図などない。台湾有事の際「尖閣(中国名 釣魚島)も奪う」というシナリオがあるが、戦争の最中、誰が無人の孤島を占領するというのだろう。トマホーク配備は「安保のジレンマ」によって、新たな軍拡競争の引き金を引くだけ。軍事抑止の神話は捨てるべきである。
米政府は一極支配秩序が軍事覇権によって成立した自己経験を、中国にもそのまま投射して中国対応を判断する傾向が強い。しかし中国の場合、伝統的な重商主義的政策を背景にした経済力こそが力の源泉である。侵略と支配を支えるために軍事力を維持する米国のような軍事覇権国家ではない。
衰退加速の転換点
第3は、大軍拡は日本衰退を加速する転換点。軍事費は兵器開発・調達費と購入費の返済、訓練、人件費、弾薬や燃料の備蓄費用などに充てられる。1966(昭和41)年の国会で福田赳夫蔵相は「防衛費は消耗的な性格を持つ。国債発行対象にすることは適当でない」と答弁した。
にもかかわらず安保3文書の決定を受け、岸田政権は2023年度当初予算案で、4343億円の建設国債を初めて防衛費に充てる方針を明らかにした。まるで「防衛費増額は国債で」を遺言にした安倍亡霊にとりつかれているようだ。
国際通貨基金(IMF)によると、日本の政府債務残高は2022年10月GDP比で263%と米国のほぼ2倍。主要7カ国(G7)ではイタリアでも161%と先進国でダントツだ。10年に1回世界を襲う金融危機を、いったいどうやって乗り切るつもりなのか。
日本の一人当たりGDPは1997年まで世界4位だった。しかしバブルが破裂した1998年からほとんど増加せず、2013年には世界25位にまで転落。この30年間、賃金水準も下降しているほど。「失われた30年」から脱却できる見通しは立たず、少子高齢化が進んで労働生産性人口が減少する一方。
円高に歯止めがかからなかった2022年、その理由を欧米との金利差に求める議論があったが、真の理由は衰退ニッポンそのものにあった。生産性の薄い軍事費は、福祉はもちろん教育投資を犠牲にする「金食い虫」でしかない。安保のジレンマが予算を膨張させ、歯止めがかからない。
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台湾政権交代なら岸田に痛手
第4は、岸田政権の対米追従政策の見直し。台湾有事論を政府とメディア一体で進めてきた過程を振り返れば、バイデン政権が米一極支配復活を求める「グランドデザイン」に、日本政府が唯々諾々と追従してきた姿勢がみえてくる。
多極化が進む世界で、米欧日など先進国の相対的な地位低下は著しく、アジア、アフリカ、中南米など、途上国の力と声が高まっている現実を正視しなければならない。同じ米同盟国とはいえドイツとフランスは、対ウクライナ戦争への対応を含め決して米国の「グランドデザイン」に完全に同調しているわけではない。
日米同盟強化ばかりに血道をあげてきた岸田は2022年11月バンコクで、習近平国家主席との初の対面会談にこぎつけた。しかし台湾など安全保障問題での対立の溝は埋まらなかった。それはそうだろう、日米同盟強化と台湾有事に向けた軍事力増強をうたう安保3文書は明らかな中国敵視政策だからだ。これを「外交敗北」という。
米国の対中包囲網を二人三脚で進めてきた台湾側にも変化の兆しがみえる。22年11月の統一地方選挙で蔡英文政権は惨敗。(写真 民進党主席辞任を発表する蔡英文 NHKデジタルから)この間の「抗中保台」政策は民衆の離反を招き、24年1月の次期総統選でも対中関係の見直しを迫られている。政権交代となれば、両岸関係の緊張が緩和され米中対立の環境は大きく変化する。台湾有事の可能性は遠のき、安保関連3文書に基づいた岸田政権の軍拡路線に対する疑念や風当たりは強まる。日本にも影響が及ぶ。
進めるべきは、中国脅威を煽って対中軍事抑止の言い訳にすることではない。中国敵視をやめて、停止状態の日中首脳交流を再開して信頼醸成を図ることである。外交を正常軌道に戻すことだ。
日中関係正常化へ提言
最後に平和構想会議の日中関係に関する提言を付記する。
1,中国への「敵視」政策を停止すること。中国を「脅威」と認定することは、敵視することに他ならない。日中国交正常化の共同声明、日中平和友好条約を再確認すべきである。安倍元首相は2018年の訪中で「お互いに脅威にならない」ことで習近平国家主席と合意している。その再確認が必要。
1,首脳レベル相互訪問の早期再開に合意すること。林外相は速やかに訪中を実現し、相互 訪問実現にむけた環境整備に着手すべきである。
1,「台湾独立を支持しない」と表明すること。これは日中国交正常化の共同声明とこれまで の日本政府の一貫した立場に従うものである。バイデン米大統領も2022年11月14日の習氏との首脳会談で「台湾独立を支持しない、二つの中国、一中一台を支持しない」ことをあらためて誓約しており、日本も同様の表明をおこなうべきである。そのことが中国に安心を与え、台湾海峡の緊張緩和につながる。
1,これら中国との信頼醸成・緊張緩和の措置をとることは、環境問題や人権問題について「譲歩」することを意味しない。環境問題や人権問題については、国連や国際法の枠組み の中で積極的に議論と交渉を進めていく。
 1,日中間の安全保障対話を進め、緊急時に防衛当局間をつなぐホットラインを開設すること。こうしたチャネルを通じて、中国の軍事力強化の意図を正確に分析・認識することが重要である。
1,日中間の軍縮・軍備管理対話を促進し、相互的な軍縮・軍備管理措置を追求すること。
​(了)


[i] 岡田充(東洋経済ONLINE 2022/02/19 「台湾有事で日本を主役にするバイデン政権の思惑 台湾への軍事侵攻に日本が抑止力として関与?」)台湾有事で日本を主役にするバイデン政権の思惑 | 中国・台湾 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
[ii] 岡田充(海峡両岸論第126号「虚構の『台湾有事』切迫論 武力行使は一党支配揺るがす」第126号 2021.05.10発行 (weebly.com)
[iii] 習近平党活動報告(新華社 22・10・16)(二十大受权发布)中国共产党第二十次全国代表大会在京闭幕 习近平主持大会并发表重要讲话-新华网 (news.cn)
[iv]「統一のためには武力行使も辞さない姿勢」(NHKニュース 22・10・17(習国家主席“アメリカをも超える強国建設”長期政権へ強い決意 | NHK |  
[v]「中国、24年までに台湾侵攻も」 米海軍トップ: 日本経済新聞 (nikkei.com)
[vi] 習近平23年新年談話(台湾「聯合報」22・12・31) 習近平新年賀詞提「兩岸一家親」 連續兩年對台喊話 | 兩岸要聞 | 兩岸 | 聯合新聞網 (udn.com)
[vii]「台湾白書」(観察者 22・8・10)国务院台办、国务院新闻办联合发表《台湾问题与新时代中国统一事业》白皮书 (guancha.cn)
[viii] 岡田充(海峡両岸論99号「30年内の統一目指すが急がない 習近平の新台湾政策を読む」)第99号 2019.02.14発行 (weebly.com)
[ix] 岡田充(Business Insider  2022・9・22) バイデン大統領「台湾独立容認」ポロリ発言。それでも「なぜか」中国と台湾が静かな理由 | Business Insider Japan)
[x] 岡田充(Business Insider  2022・9・6)台湾を「同盟国」に「攻撃的兵器」付与も。米「台湾政策法案」は中国との新たな火種に… | Business Insider Japan
[xi] 「五不四無意」
中国新華社の報道によると、バイデンはバリ島での習近平との初の対面首脳会談で、「台湾独立を支持しない」など従来のオンライン会談で誓約した「「四不一無意」(四つのノーと一つの意図せず)に加え、「『二つの中国』、『一中一台』を支持しない」、「米中デカップリングをするつもりはない」、「中国の経済成長を邪魔するつもりはない」、「中国を包囲するつもりはない」などを誓約する意思を習に伝えた。中国側はこれを「五不四無意」としてアップデートさせた。
[xii] 「日本に武器供与拠点を」(「日経」22・6・24インタビュー)
[xiii] 岡田充(東洋経済ONLINE  2022/09/15  )台湾有事を見据え水面下で進む日米台の軍事協力 | 中国・台湾 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
[xiv] 岡田充(Business Insider 2022・7・6)ウクライナ侵攻「予言」したランド研究所のレポートが話題。台湾有事煽る米政権の戦略とシナリオが「酷似」と | Business Insider Japan
[xv] 岡田充(東洋経済ONLINE 2022/05/21 ) 自分たちで守れ? 台湾有事でも派兵しない米国 | 中国・台湾 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
[xvi] 岡田充(Business Insider 2022・3・31)台湾の最新世論調査「中国は軍事侵攻しない」が約6割の“意外”。なぜか日本は「侵攻懸念」が8割超で… | Business Insider Japan 
[xvii] 新聞通信調査会(2022・11・12)第15回メディアに関する全国世論調査(2022年)プレスリリース配付.pdf (chosakai.gr.jp)
[xviii] 平和構想提言会議 提言最終版.pd
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第145号 2022.12.15発行

12/15/2022

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「嫌中世論」に頼る対中外交の危うさ
Z世代の中国好感度と世代格差

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岸田文雄首相が2022年11月17日、バンコクで習近平中国国家主席と3年ぶりの日中首脳会談(写真 中国外交部HP)を行い、悪化する関係の仕切り直しをした。岸田の対中外交には、関係改善に否定的な「嫌中世論」と自民党右派の「二つの壁」が立ちはだかる。だが嫌中世論といっても、18~29歳の「Z世代」の中国好感度は、なんと40%超にも上り世代間格差が目立つ。Z世代の選択は、選挙や政治潮流のカギを握る世界的傾向であり、「嫌中世論」と「右派」に寄りかかる岸田外交は危うい。
3年前のレベルに戻る
 日中関係は2020年3月、習氏訪日が延期されて以来、日米同盟を「地域安定枠組み」から「対中同盟」に変質させ、日本政府が台湾問題に主体的に関与し南西諸島のミサイル基地化を強化する中で悪化の一途をたどってきた。
 日中首脳会談はわずか45分。3時間以上に及んだ米中首脳会談(バリ島 11月14日)に比べると、中国にとって日本の比重低下は否めない。両者とも笑顔でカメラに収まり、安倍晋三元首相の2014年訪中当時、習氏がみせた「仏頂面」とは明らかに雰囲気は変化した。首脳会談実現によって、日中政府間のレベルは、習氏訪日を招待した2019年末の段階に戻ったと言っていい。

「領土は妥協可能」と習
 会談テーマでは、岸田氏が「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調したのに対し、習氏は「内政干渉は受け入れない」と反発、台湾問題ではそれぞれ主張をぶつけ合い平行線をたどった。その一方、習氏は「海洋と領土の問題は意見の相違を適切に管理しなければならない」(新華社) 注1と述べ、尖閣(中国名 釣魚島)をめぐる「領土紛争」を、対話と協議で解決する姿勢を見せた。中国にとり「核心利益中の核心」である台湾問題とは異なり、領土問題は妥協可能なテーマであることを改めて示した。
 会談での合意は、①外務・防衛当局高官による「日中安保対話」の開催②緊急時に防衛当局間をつなぐ「ホットライン」の早期開設③閣僚級のハイレベル経済対話の早期再開④林芳正外相の訪中調整―など。今後の関係改善指標の一つは、習訪日を含む首脳相互訪問の実現になる。
 岸田は東シナ海情勢で「深刻な懸念」を表明したが、自民党右派が主張する「脅威」という表現を使わなかった。12月16日に閣議決定した「国家安全保障戦略」では、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と表現し、4月の自民党案にあった「脅威」は「寸止め」で回避した。
 その一方、「防衛計画の大綱」に代えて新たに策定する「国家防衛戦略」では、中国が22年8月初め台湾本島を包囲する軍事演習で、日本が主張する排他的経済水域(EEZ)内に弾道ミサイルを落下させたことに対し「地域住民に脅威」と書き「脅威」の表現を初めて使用した。政府原案では「わが国および地域住民に脅威」としたが、公明党から「日中の対立をあおる」と反対意見が出た注2ため妥協したという。

目立つ右派への配慮
 中国は、岸田政権が発足した21年10月直後は、岸田が日中国交正常化に腐心した大平正芳元首相ら対中関係重視の「宏池会」を率いていることから関係改善に期待した。しかし、右派への抑えが効く安倍を失ってから、岸田は関係改善に否定的な右派の顔色をうかがう姿勢が目立つ。王毅外相が221年1月、林氏に訪中を求めたのに実現していないのも訪中に反対する右派への配慮からだった。
 改善を阻むもう一つの壁は、「反中」「嫌中」が高まる「翼賛世論」だ。岸田自身の支持率が各種世論調査で低空飛行する中、「弱い首相」による対中関係改善のイニシアチブが、嫌中世論に受け入れられる保証はない。

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なんと4割超が「中国に親しみ」
 悪化するばかりの対中観だが、内閣府が毎年初めに発表する「外交に関する世論調査」 注3をチェックすると、極めて興味深い数字が浮かび上がる。2022年1月発表の「日本と中国」の項目を見ると、中国に「親しみを感じる」は全体で20・6%(前年比+1・4ポイント)。「親しみ感じない」は79・0%(+1・7ポイント)と「嫌中」ぶりがうかがえる。
 しかしこれを世代別にみると、Z世代で「親しみを感じる」割合はなんと41・6%と全体の倍以上だった。60歳代(13・4%)や70歳以上(13・2%)と比べると、世代差がいかに広がっているか分かる。

 なぜ世代によってこれほどの開きが生まれるのか。
 私自身の経験を踏まえて分析したい。私は19歳になった大学1年の1967年夏、全国学生の中国訪問を組織する「斉了(ちいら)会」(写真 訪中学生団57周年記念展示会のテープカット 中国文化センター提供)の訪中団に参加、文化大革命下の中国を約3週間旅行した経験がある。その活動を記念する展示・講演会が22年11月開かれ、その時の経験や対中観の世代間格差について話をした。
 当時、私の中国への関心は①文革の「造反有理」のスローガンは、ベトナム反戦運動で盛り上がった日本の学生運動と共振②社会主義社会へのあこがれ③中国侵略に対する贖罪意識―などだった。この旅行に参加した100名以上の全国の大学生の認識もほぼ同じだったと思う。
 つまり中国という「他者」に自分を投影して、期待するイメージを勝手に膨らませたのである。その後、文化大革命は巨大な権力闘争だったことが分かった。天安門事件で社会主義への期待が破られ、香港での大規模デモ報道をみて、中国から距離を置いていった同世代の人がいかに多かったか。中国に委ねた「幻想の皮」が一枚ずつはがされていったのだ。
 現在も同じような中国観は形を変えて生きている。中国を他者としてではなく、その政治・社会に日本や欧米の統治システムを投影し、欧米のモノサシから判断する観察方法だ。これが60、70歳代で「中国に親しみを感じない」理由の背景だと思う。

「等身大」で他者をみる
 一方、Z世代の意識は異なる。私が教えた大学の学生の例を挙げると、生まれた時から経済成長の経験がない彼らにとって、中国は物心ついた時にはアメリカを追い上げる大国。IT技術では日本に先行し、ゲームやマンガは質量ともに日本を越える。
 おまけに大学やバイト先では、日常的に中国人留学生と触れ合う機会がある。つまり中国に自己を投影せず、他者として「等身大」で見ようとする視点だ。思い入れがないから、幻想も抱かない。
 内閣府調査を少し長いスパンから見ると興味深い事実が浮かぶ。中国が高度成長を続ける2000年調査では「親しみを感じる」が48.8%と「感じない」の47・2%をやや上回っていた。この時は、Z世代の「親しみを感じる」が51・5%に対し70歳代は42・15%と、世代間で大きな差はない。
 格差が顕著になるのは「尖閣諸島国有化」直後の2012年11月調査。「親しみを感じる」が全体で18・6%。このうちZ世代が30・1%に対し70歳代11・8%と開きが拡大していく。この傾向は2016年「親しみを感じる」が全体で14・8%のうち、Z世代は25・8%に対し、60代は8・3%、70代は13・0%だった。その差は2019年で顕著になり、「親しみ感じる」22・7%のうちZ世代は40・8%だったが、70歳は20・1%と倍以上に開いた。

「スマホ」が変えた対中観
 世代間格差が広がる第1の要因は、いびつな人口構成だ。22年発表の調査のサンプル数は約1600名。家庭訪問式の調査のため家にいることの多い60、70歳代が計740名と4割を越える。少子化に加え学校や仕事を持つZ世代は在宅しないことも多く、調査対象は164人と1割に過ぎない。全体として対中好感度が低くなる要因かもしれない。
 第2はメディアの違い。日本のZ世代は、固定電話はもちろん新聞も読まずTV受信機もない。ニュースを含めあらゆる情報と人とのつながりはスマートホンを介するケースが多い。従って新聞やTV報道の影響は、高齢者に比べるとあまり受けない。
 これに対し高齢層は、朝から家でTVワイドショー番組を視る割合が高いと推定される。ワイドショー番組の中国報道について言えば、客観的事実に基づかない中国批判や、脅威を煽る内容が目立つ。高齢者はこうした中国観を注入される機会が多く、それが中国を好感しない原因の一つではないか。
 日本では、若者を中心にスマートホンが普及するのは、東北大震災のあった2011年ごろとされる。ニュースを受容するメディアの世代間の違いが中国観に影響を及ぼしているという仮説は成立すると思う。

台湾でも脱イデオロギー
 中国の軍事威嚇に曝されている台湾のZ世代にも同じ傾向がある。4年前の少し古い世論調査だが、経済誌「遠見」注4 によると、18~29歳の53%が中国大陸での就職を希望し、前年比で10・5%増えた。理由は「(大陸のほうが)賃金など待遇が台湾より高く将来性がある」。脱イデオロギーの進行ぶりがうかがえる。
 台湾では、「産まれた時から台湾は独立国家だった」と考えるミレニアル世代(22年段階で、26~41歳)を「天然独」(自然な独立派)と呼ぶ。中国大陸は既に「他者」であり、思い入れはない。習は3年前の2019年に発表した台湾政策「習5項目」で、統一政策の重点のひとつとして「中華文化の共通アイデンティティを増進し、特に台湾青年への工作を強化」を挙げている。「中華離れ」するZ世代やミレニアル世代を強く意識しているのが分かる。

選挙結果左右するパワー
 Z世代は、選挙や政治的選択の帰すうを決するパワーを持ち始めた。22年11月の米中間選挙では、苦戦が予想された与党の民主党が健闘した。AP通信によると、民主党への投票者はZ世代で53%と共和党より13ポイント多かった半面、45~64歳は共和が54%と民主に11ポイント差をつけ、65歳以上も共和が民主を大きく上回った。Z世代の支持が民主党を支えたと言える。
 岸田内閣支持率は、朝日新聞(11月14日)の調査注5で、37%と政権発足以降の最低を記録した。このうち自民党支持層での内閣支持率は68%だったが、そのうちZ世代の支持率は半分以下の29%に過ぎなかった。Z世代は支持政党にかかわらず、岸田政権を見放しつつある。政権はかなり危ない。
 私を含め団塊世代は、70歳代後半に差し掛かった。一方、Z世代やミレニアル世代が社会の中枢を占めるようになると、日本人全体の中国観にも変化が表れる可能性がある。中国の台頭と日本衰退という歴史的な潮流変化を依然として心理的に受け入れられず、アジアを上から見下す「脱亜入欧」意識を持ち続ける世代が後景に引けば、「嫌中」「反中」世論も次第に変化するはずだ。これが国交正常化50周年を迎えた2022年にみえた、わずかな「光明」だ。(敬称略)

 (注)本稿は「東洋経済ONLINE」から出稿したーZ世代は「中国に好感」 世代で分かれる好感度の理由 岸田政権「嫌中世論」に頼る対中外交の危うさ 「Z世代は中国に好感」世代で分かれる好感度の理由 | 中国・台湾 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)を大幅に加筆した内容である。


 
 
注1习近平会见日本首相岸田文雄_中华人民共和国外交部 (mfa.gov.cn)
注2安保3文書、自公が合意 中国情勢「地域住民に脅威」:朝日新聞デジタル (asahi.com)
注3外交に関する世論調査 2 調査結果の概要 1 - 内閣府 (gov-online.go.jp)
注4http://www.chinatimes.com/newspapers/20180213000461-260108
注5岸田内閣支持率37%、初の3割台:朝日新聞デジタル (asahi.com)

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第144号 2022.11.07発行

11/7/2022

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民意は台湾統一防ぐ万能薬か
「法統」から独立封じる中国

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中国共産党の第20回党大会(10月16~22日)は、習近平総書記の3期目続投を決め「習一強体制」を強化した。台湾問題で習は、統一攻勢を強める姿勢を打ち出した。しかし党規約改定では、統一を急ぐ記述や武力行使の表現はなく中国が統一を急いでいないことがわかる。統一を嫌う台湾側は、民主化と「台湾人意識」の高まりを武器に、統一攻勢をかわそうとする。しかし「一つの中国」を前提にする「中華民国憲法」の法的枠組みを台湾が崩すのは難しい。台湾民意は統一阻止の武器だが「万能薬」ではない。
決めるのは中国人or台湾人?
 党大会初日に行われた習活動報告注1 (写真 中国共産党網HP)の台湾部分を再現する。
 「台湾問題の解決は中国人自身のことであり中国人自身が決めるべき。最大の誠意をもって最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す。その対象は外部勢力の干渉と、ごく少数の台湾独立分裂勢力と分裂活動であり、広範な台湾同胞に向けたものでは決してない。祖国の完全統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」
 演説に対し台湾の蘇貞昌行政院長(首相に相当)は、「台湾は台湾人自身が主人であり、その将来は台湾人自身が決定する」と反論注2 した。台湾総統府も「民主主義と自由は台湾人の信念。台湾の主流民意は『一国二制度』を拒んでいる」との声明を発表した。
 台湾側が、統一攻勢を米日との安保協力強化と、台湾民意という民主を盾にかわそうとしていることが分かる。台湾解決の主体は「14億人の中国人」か、それとも「2400万人の台湾人」か。この問いこそ、台湾問題の本質にかかわるテーマだ。民意と法的正統性(法統)が矛盾しながら複雑に絡み合う。

「主権は中国にある」
 まず中国側の現状認識をおさらいする。中国政府が発表した「台湾白書」注3 (8月10日)は、1949年10月1日の中華人民共和国成立をもって「国際法上の主体が変わらない中国の政権交代」とし、「中華人民共和国政府が台湾への主権を含む中国の主権を完全に享受、行使するのは当然」と書いた。台湾主権が、「中華民国の継承国家」である中華人民共和国に移ったという立場だ。
 一方の台湾側はどうか。その法的根拠である「中華民国憲法」注4 は、蒋介石氏率いる国民党が大陸を支配・統治していた時代の1947年に成立した。その2年後の1949年、国民党は国共内戦に敗れ台湾に敗退した。「中華民国憲法」は1988年にスタートした李登輝体制下で、台湾地域のみを統治する現実に即し何度か修正されたが、「一つの中国」を前提に構成されている事実に変わりはない。

「中華民国台湾」に名称変更
 さて、蔡英文総統は2019年10月の「建国記念日」演説注5で、「中華民国」ではなく「中華民国台湾」という名称変更を主張した。ただし、これは法的変更ではなく政治的メッセージの域を越えない。台湾外交部は変更について注6 「中華民国台湾は主権を有する独立した民主国家であり、主権は2350万人の台湾人民に属する」という解釈を提示した。
 これは何を意味するのか。簡単に言えば、「中華民国台湾」は、「一つの中国」を代表する「中華民国」とは異なり、実効支配している台湾地域のみの主権を持つ「現状」を反映した「国家」という主張。つまり「中華民国」では、中国側の主権主張に対抗できないという含みがある。
 蔡自身はたびたび「われわれは既に独立国家であり、独立を宣言する必要はない」注7 と繰り返してきた。台湾は既に主権独立国家なのだから「現状維持」でいいということだ。「中国の主権は及ばない」とするこの現状認識を、中国側は「一つの中国」原則を否定し「独立への企み」と非難している。


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台湾人意識の高まり
 習演説の直後、日本のある中国研究者はSNSに、「習近平演説は“中国人が決める”というが、『中国人ではない、台湾人だ』という(台湾人)アイデンティティの変容から、中国人が決めるという方針の実効性は怪しくなりはしないか?」と書き込んだ。
 分断統治から73年を経て、台湾では「中国人ではなく台湾人」と自己認識する「台湾人アイデンティティ」(「台湾人意識」と略)が高まっている。「これが統一にとって障害になる」というのが、中国研究者の問題提起だ。
 台湾政治大学が1992年から定点観測している「台湾人・中国アイデンティティ調査」注8 を見れば、意識変化は一目瞭然だ。(左グラフ)
 調査を開始した李登輝時代の1992年には「台湾人でも中国人でもある(「両方」と略)」(赤色)が46・6%とトップ。次いで「中国人」(青色)が25・5%で、「台湾人」(緑色)は17・6%だった。台湾で政治・社会の民主化が進むと同時に、中国との経済・貿易・文化交流が公式に始まった時期にあたる。
 それから30年後の2022年、「台湾人」が63・7%とトップになり、「両方」は30・4%に下降、「中国人」に至っては2・4%に激減した。これが先の研究者の言う「アイデンティティの変容」だ。

「法統」否定できない米国
 台湾人意識の高まりは紛れもない事実だ。確かに、中国の統一攻勢を跳ね返す力の一つだが、果たして統一阻止の「万能薬」になるだろうか。なぜなら第1に米中間の「一つの中国」の法統があり、第2に台湾自身が縛られている法統も「一つの中国」を突き破れないからだ。
 まず米中間の「法統」。バイデン氏は最近「私は独立を推奨しないが、台湾が独立するかどうかは、台湾人自身が決定する」と、事実上の「独立容認論」注9 を公言した。その一方、10月に発表した「2022年国家安全保障戦略」注10 は、対中政策の基本として台湾関係法などとともに「三つのコミュニケ」を挙げた。
 第1コミュニケの1972年「上海コミュニケ」は、「米国は,台湾海峡の両側のすべての中国人が,中国はただ一つであり,台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は,この立場に異論をとなえない」と書く。
 コミュニケから半世紀が経ち、「両岸の中国人」のうち、台湾側の自己認識は大きく変わり、「台湾は中国の一部分」とは見なさないようになった。だが、バイデン政権はコミュニケを否定できない。それが米中関係の政治的基礎としての法的正統性だからだ。それは現実を越える「虚構」かもしれないが、否定すれば米中関係の基礎は崩壊する。


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国際政治の方程式から選択
 第2は台湾自身の「中華民国」という法統。中華民国を否定し「台湾共和国」を建国する「独立の実現」は、現在の国際政治の枠組みの下ではほぼ不可能だ。法統の拘束力を「民意」によって乗り越えると考えるのは、理想論に過ぎない。
 「民意」自体がうつろいやすい性格であることに加え、「台湾人意識」が高まったからといって、それは単線的に「独立」支持の民意にはならないからである。現在の民意を先の政治大学の調査で見てみよう。

 右のグラフ注11 は、統一・独立・現状維持などの政治的選択傾向を示している。調査開始の1992年以来、「現状維持」はずっと1位だが、2022年の調査では56・9%に上る。「すぐ独立」は5・1%で、「すぐ統一」は1・3%に過ぎない。
 台湾人意識を持つ多くの人は、米中関係など国際政治をはじめ、中国との力関係、経済的利益などさまざまな変数から成る方程式によって、回答を求めようとしている。


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国民党独裁否定できない蔡政権
 観念的議論が多く、退屈だったかもしれない。台湾自身を縛る「法統」の具体例を挙げよう。蔡は2016年5月20日に総統就任式に臨んだ。彼女は「中華民国国歌」を声を上げて唱和した。「三民主義をわが党の宗とする」で始まる「国歌」は、もともとは国民党歌だ。だから民進党員の多くは斉唱を拒否してきたのだ。
 「三民主義」とは、国民党を作った孫文が主唱した社会主義的スローガンだ。総統府で行われた就任式(写真2016年の就任式 総統府HP)には、孫文の肖像画に向かって総統は手を挙げ宣誓しなければならない。
 「中華民国国旗」の左上の太陽に似たロゴは、もともとは国民党の党章だ。これは何を説明するのか。「中華民国」は国民党の一党独裁下の「法統」に基づくシステムで作られた。李登輝時代に「民主化し台湾化」した台湾だが、民主化から30年以上経た今も、「一つの中国」を前提にした憲法と、国民党一党独裁時代の「法統」は生き続け否定できないのだ。
 台湾の民主化とIT技術をバネにした経済発展は、世界で孤立を深めた台湾の地位を向上させた。中国が国力を増強させるのと比例するかのように、日本では対中脅威論が翼賛世論化した。「中国に親しみを感じない」が約8割に上る注12 一方、台湾に「親しみを感じる」割合は75・9%とアジアではトップ注13 になった。
 その理由は「日本に友好的」「自由・民主主義などの価値観を有している」など、台湾民主化が好感度を押し上げていることが分かる。中国の大国化に台湾の政権交代、米中対立の激化の三要因が、米日の対中関係正常化を中心とする「1972年体制」を大きく動揺させていると見る台湾研究者注14 もいる。
 しかし、これまで検証してきたように、「民意」と矛盾する「法統」を拒否できない台湾の現状も知っておくべきだ。台湾がそれを変えられる展望は当面ないだろう。中国が主張する「統一の法理」を頭から排除することもできないのである。(了)


注1習近平党活動報告(2022年10月16日 新華社)
(受权发布)习近平:高举中国特色社会主义伟大旗帜 为全面建设社会主义现代化国家而团结奋斗——在中国共产党第二十次全国代表大会上的报告-新华网 (news.cn)
注2台湾TBVS新聞網(2022年10月16日)
習近平重申反台獨!蘇貞昌嗆:台灣人自己當家作主│中共20大│蔡英文│台海局勢│TVBS新聞網
注3「台湾問題と新時代の中国再統一事業」に関する白書(2022年8月10日 国務院新聞弁公室)
(https://www.guancha.cn/politics/2022_08_10_653104_s.shtml)
注4「中華民国憲法」
(https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/cat/15.html)
注5蔡英文演説(10 October, 2020 台湾中央広播電台)
双十国慶節演説、蔡・総統「主権と民主を堅持、両岸関係の安定を維持」 - ニュース - Rti 台湾国際放送
注6「中華民国台湾」(2021/03/21 中華民国外交部HP)
中華民國是一個主權獨立的民主國家,只有台灣人民有權決定台灣的未來 (mofa.gov.tw)
注7「台湾の蔡総統、『われわれはすでに独立国家』 中国に警告(2020年1月15日 AFP通信)
(https://www.afpbb.com/articles/-/3263571)
注8台湾民衆の台湾人、中国人認識の趨勢(2022年7月 国立政治大学選挙研究中心HP)
國立政治大學選舉研究中心-臺灣民眾臺灣人/中國人認同趨勢分佈 (nccu.edu.tw)
注9岡田充「バイデン大統領「台湾独立容認」ポロリ発言」(Sep. 27, 2022  Business Insider Japan)
「バイデン大統領「台湾独立容認」ポロリ発言。それでも「なぜか」中国と台湾が静かな理由 | Business Insider Japan
注10国家安全保障戦略2022(2022年10月 whitehouseHP)
Biden-Harris Administration's National Security Strategy.pdf (whitehouse.gov)
注11「台湾民衆の統一、独立に関する趨勢」(2022年7月 国立政治大学HP)
(國立政治大學選舉研究中心-臺灣民眾統獨立場趨勢分佈 (nccu.edu.tw)
注12内閣府外交世論調査(2022年1月)
外交に関する世論調査 2 調査結果の概要 1 - 内閣府 (gov-online.go.jp)
注13「約8割が『台湾に親しみ』日本人意識調査」(2022年01月20日 時事通信)
約8割が「台湾に親しみ」 日本人意識調査、「友好的」「民主主義」で信頼:時事ドットコム (jiji.com)
注14福田円「『台湾海峡の平和と安定』をめぐる米中台関係と日本――動揺する『1972年体制の含意』」(「外交」=Vol74 Jul/Aug)88頁下段Paragraph. 編集するにはここをクリック.

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